脳出血後遺症の片麻痺(運動麻痺)はどのようにして回復するの?
麻痺の重症度は何に左右される?
麻痺の回復過程とリハビリの効果とは?
目次
脳出血とは?
脳の血管が破れて脳実質内に出血することを脳出血(または脳内出血)といいます。
我が国では癌、心疾患、肺炎に続いて死因の第4位を占める重大な病気です。
原因は高血圧
高血圧は主に生活習慣と関わりがあることが多く、生活習慣の改善と降圧治療薬が脳出血の発症・再発の予防として 重要となります。
一般に血圧が高いほど出血量は大きくなります。脳出血発症後に出血量を最小限に抑えるには早急に血圧をコントロールする必要があります 。
【7つの手軽にできる塩分制限で高血圧対策】
【継続できる手軽な有酸素運動で高血圧対策】
予防するには脳ドックを受けて自分の脳の血管に異常がないかをチェックしてもらいましょう。
【若い人も要注意!若年性脳卒中を予防するには脳ドックを受けるべし!】
好発部位
脳出血の好発部位は被殻出血、視床出血、皮質下出血出血、小脳出血、脳幹出血の順に多いです。およそ7割を被殻出血と視床出血が占めます。
【脳出血の好発部位とその症状は?どんな後遺症が残る?】
脳出血の好発部位でもある被殻と視床は運動神経の通り道である内包後脚の近くにあるため、後遺症として片麻痺を生じやすいです。
片麻痺の原因は?
脳内に出血した血の塊のことを「血腫」といいます。
この血腫自体が運動を支配する神経(皮質脊髄路または錐体路)を破壊したり、間接的に皮質脊髄路の周囲を圧迫することで片麻痺が生じます。
「麻痺の重症度は血腫がある部位・血腫の大きさによって左右されます。」
また血腫が大きい場合は、頭蓋内圧亢進による脳ヘルニアをきたします。脳ヘルニアにより脳幹が圧迫されると重度の意識障害をきたし、生命予後に関わります。発症早期に意識が戻らなければ、麻痺の回復しやすい貴重な時期に積極的なリハビリができないのです。意識が回復したとしても重度の麻痺が残る確率が高くなります。
【脳出血で意識不明:手術で意識が回復する可能性は?余命は?】
【脳出血の生存率は?予後を左右するのは血腫の大きさ】
逆に、
意識障害やその他の合併症がなく、早期にリハビリを開始できた方は麻痺の回復は早い傾向にあります。
血腫を増大させないためにも早期からの血圧管理が非常に重要となります。
補足
他にも麻痺の回復に影響する因子として以下のものがあります。
- 年齢
- 感覚障害の有無
- 高次脳機能障害(認知症、半側空間無視、半側身体失認、失語症など)
- 精神状態(うつ病など)
高齢ほど麻痺は回復しにくくなります。「運動」と「感覚」は切り離せない関係にあります。感覚障害が重度であるほど運動麻痺に対するアプローチは難渋します。高次脳機能障害やうつ病により集中的な機能訓練が困難となるため麻痺の回復に影響を与えます。
片麻痺は治るの?回復過程について
一度血腫に侵されてしまった部位の機能は回復しないことが殆どです。
よって血腫が運動を司る神経(皮質脊髄路)を侵してしまった場合、麻痺の完治は困難となります。
【脳卒中後遺症の片麻痺って治るの?回復の過程や治し方について】
【脳卒中の麻痺は回復する?3つの回復過程とその期間について 】
また、この血腫は周囲の正常な部位までも圧迫してしまい、「脳浮腫」を引き起こしてその機能を低下させます。
血腫が吸収されれば正常な部位の脳浮腫は改善し、一部の麻痺の回復を認めることがあります。脳浮腫は出血後3~4日目でピークを迎え、血腫の自然吸収に伴って徐々に軽減していきます。
個人差はありますが完全に消失するには数ヶ月を要すと言われています。
脳浮腫の例
(出典:http://www.ohkubohospital.jp/nogeka/disease/ich/)
右側の白い塊が出血部位(血腫)です。その血腫のまわりに見える黒いモヤモヤが脳浮腫です。
拡大図
CT画像上で出血が大きくても錐体路に直接的なダメージがなければ麻痺はほとんど回復します。脳浮腫の影響で一時的に麻痺が生じることもありますが、脳浮腫が軽減すれば回復するケースが多いです。
リハビリの効果は?
リハビリによる麻痺の回復効果は発症後のいかなる時期においても期待できます。
たとえ発症からどれだけ経っていようと、集中的なリハビリによって麻痺の改善は認められています。
ただ、
「何を・どれくらいの量ですべきか」
が重要となります。
ここでは各時期におけるリハビリについてまとめてみました。
急性期(発症直後〜1ヶ月程度)
まだ血腫や脳浮腫が残存しているため、なかなか麻痺は回復してこない時期ですが、麻痺が重度だからと言って麻痺した手足を全く動かなさいのはダメです。拘縮予防のためのストレッチだけでは残存している皮質脊髄路の興奮性が衰退してしまいます。その結果、1週間程度で残存皮質脊髄路のワーラー変性(損傷部位より遠位の神経が萎縮してしまうこと)が始まり、その後の麻痺の回復に支障をきたします。麻痺側の不使用を学習してしまうと運動神経は萎縮してしまいます。
急性期では拘縮予防のためのストレッチに加え、他者が積極的に麻痺した手足を動かし、患者自身はそれに応じて自身でも動かそうと努力をしましょう(もちろん痛みのない範囲で)たとえ麻痺によって全く動かせなくても、自身で動かすイメージをするだけで皮質脊髄路の興奮性は高まります。
回復期(発症後2〜3ヶ月)
麻痺の回復がピークとなるこの時期では、全身状態も良くなり、意識もはっきりしてくるので麻痺側の集中的な機能訓練が可能となります。回復期リハビリ病院で毎日3時間みっちりとリハビリを受けましょう。麻痺に対して最も効果の高い治療法としては川平法があります。川平法を実践している病院へ転院できるならすべきです。
「川平法」
麻痺した手や足を操作(促通治療)することで意図した運動(随意運動)を実現し反復することで、それに必要な大脳から脊髄までの神経回路を再建・強化することを目的とした治療法。
慢性期・維持期(発症6ヶ月以降)
この時期では保険下のリハビリに期待はできません。活動量を維持する程度ならば保険下のリハビリで十分ですが、質も量も担保された麻痺に対するリハビリは保険下では実現できないからです。本気で麻痺を良くしたいなら自費でのリハビリしかありません。
退院後に受けられるリハビリの種類や費用についてまとめた記事も参考にしてみて下さい。自費リハビリについてもまとめてあります!
【脳出血で退院後のリハビリ費用|医療・介護・自費の3つで比較してみた】
今話題の再生医療で麻痺を回復させよう!リハビリでの麻痺回復効果には限度があります。さらなる回復を目指すなら自費の再生医療にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
【脳出血後遺症の再生医療を受けるには?自費診療の費用や効果は?】
まとめ
- 脳出血の麻痺の程度は「血腫の大きさ」や「血腫のある部位」に左右される。
他にも「年齢、意識障害の有無、感覚障害の有無、高次脳機能障害の有無、うつ病の有無」も影響する。 - 脳浮腫の軽減効果によっては麻痺の回復が見込める。
- 脳浮腫の消失には数ヶ月かかる。
- 麻痺を治すための効果的なリハビリは川平法。
- 慢性期では自費リハビリや再生医療に期待。
血腫の吸収や脳浮腫の軽減効果に加え、
積極的なリハビリによってさらなる麻痺の回復を目指していきましょう。
以上、参考になれば幸いです。
でわ。
▶︎【脳出血の治療】後遺症に対するリハビリの効果とは?
▶︎ 脳卒中の麻痺が効率的に回復しやすい期間は?その治療法とは?
▶︎ 脳卒中後遺症の片麻痺って治るの?回復の過程や治し方について
▶︎【脳出血片麻痺の歩行リハビリ】短下肢装具の種類や値段は?
後遺症のしびれでお悩みの方はこちらの記事もどうぞ。
▶︎ 脳出血後遺症のしびれは治る?原因は?リハビリの治療効果は?
▶︎ 脳出血後遺症のしびれは厄介!薬が効かないときの対処法は?
▶︎【必見】脳出血後遺症のしびれに漢方薬が効くって本当?
脳出血の後 左手が思うように動きません
このような場合でも効果ありますか?
松下様
コメントありがとうございます。
手の場合、
運動麻痺が重度ならばリハビリによる回復の見込みは薄いです。
もし興味があるようでしたら
脳出血の再生医療についてこちらの記事を参考にしてみてください。
「脳出血後遺症の再生医療はどうなる?麻痺を回復させるには?」
すみません。約一年前母親が脳出血にあい、体の半分が麻痺しました。もう一度母と買い物へ行ったりしたいです。お金はいくらかかってもいいので治る、または動かしやすくなる方法、薬などは御座いますか?
吉多様
返信が遅くなり申し訳ございません。
リハビリの継続が重要かと存じます。
歩行自体は自立されていますか?
金銭的に問題ないのであれば自費診療でリハビリを行うと良いでしょう。
高頻度で介入していくことができればともに外出することも可能になるでしょう。
はじめまして。
2018年2月26日に母親が脳出血で倒れ右半身麻痺になってしまいました。倒れた当初は右手と右脚が完全麻痺でしたが、26日経過した現在は手の人差し指の先っぽを1cmくらいうごかしたり、脚は伸ばすことはできるようになりました。(膝から下は動かないし、モモを持ち上げることはできない。)回復病院の入院上限日数は150日と聞いております。あと4ヶ月くらいで、杖を使っての歩行は可能になりますか?また、手はどれくらい回復するものでしょうか?高次脳機能障害はありません。
YA様
返信が遅くなりたいへん申し訳ありませんでした。
その後の経過はいかがでしょうか?
高次脳機能障害がなければ(年齢にもよりますが)
麻痺が重度でも装具や杖を用いれば歩行をすること自体は可能です。
介助や見守りが外れるかどうかは歩く環境にも左右されるかと思います。