脳梗塞の片麻痺が治る時代はきっと来る!
再生医療とリハビリの併用効果や麻痺回復に有効なリハビリについてご紹介します。
脳梗塞の後遺症
脳梗塞は年間に約30万人が発症する国民病と言われており、要介護状態となる主な原因では脳血管障害が1位となっています。すぐ身近にある病気でありながら後遺症は多岐に渡ります。
脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の主な後遺症は以下のとおり。
- 片麻痺(運動麻痺)
- 感覚障害やしびれ
- 筋緊張亢進(筋肉のこわばり)
- 嚥下障害、構音障害
- 運動失調
- めまい
- 高次脳機能障害(記憶障害、注意障害、半側空間無視、失語症、失認、失行、構成障害など)
- 認知症
中でも片麻痺(片側の手足が麻痺して動かせなくなる)は日常生活に支障をきたし、要介護状態にさせる代表的な後遺症になります。
では脳梗塞やその後遺症に対して今までどのような治療が施されてきたのでしょうか?
脳梗塞の従来の治療法
今までの脳梗塞の治療は以下の流れが主流となります。
- 血栓溶解療法による血流改善
- 抗浮腫療法による脳圧コントロール
- 脳保護薬による神経障害の抑制
- 抗血小板療法・抗凝固療法
「一度生じた脳梗塞の範囲をこれ以上広げない」ことに焦点を当て、治療を施します。その後の後遺症に対して有効的な治療法は確立されておらず、機能回復は自然回復とリハビリテーションに委ねられていました。リハビリテーションによってある程度の後遺症の改善は期待できますが限度はあります。
結局、重度の片麻痺や感覚障害は後遺症として残ってしまうのです。
しかし、脳梗塞の再生医療は
「機能しなくなった脳内の神経組織を再度新しく生み出し、機能させる」
ことができるのです。
脳梗塞の再生医療
国内の脳梗塞等の再生医療は現在も治験中か治験の前段階にあります。中でも先進しているのは、骨髄間葉系幹細胞(MSC)を用いて治験を行なっている「札幌医科大学」と「北海道大学」です。札幌医科大学は3〜5年後の実用化を目指して治験のPhase3真っ只中です。
また札幌医科大学ではラット脳梗塞モデルに対するMSCの移植にリハビリテーションを併用し、運動機能などの回復を観察した研究では「リハビリ単独群や MSC 移植単独群よりも、リハビリ併用群の方がさらに高い運動機能の回復が得られる」ことを報告しています。(佐々木 雄一、2016年)
再生医療とリハビリテーション
脳梗塞の再生医療は
「脳内の失われた部分に新しい神経細胞を補充する」
「脳が再び神経回路をつくるポテンシャルを手に入れる」
という解釈が最も適しています。
重要なのは「運動学習」という観点から再生された中枢神経組織の機能を正しく再構築させることです。よって脳梗塞の再生医療においてリハビリテーションは必要不可欠になります。
再生医療で麻痺が治る時代になったら脳梗塞片麻痺患者のリハビリテーション戦略も大幅に変わります。
特に重症例に対しては、代償動作や補助具の導入を促すような間接的な介入から運動麻痺を治すための直接的な介入に変わらざる得なくなります。
これは今まで麻痺が重度であるが故に、療法士に匙を投げられてしまっていた片麻痺患者にとって朗報となるでしょう。療法士にとっては今までの治療戦略を抜本的に見直す良い機会になります。
運動麻痺の回復効果が高いと言われるCI療法、促通反復療法、認知運動療法、ロボット療法などが主流となるでしょう。とりわけ促通反復療法(川平法)は今まで以上に注目を浴びることでしょう。麻痺を治すことに特化した治療法なので再生医療との併用はまさに鬼に金棒です。
ちなみに北海道の釧路孝仁会記念病院では脳梗塞の再生医療とリハビリを併用した治療を受けることができます。
脳梗塞後遺症の再生医療を受けるには?自費診療の費用や効果は?
ただ、麻痺が完治するとまでは言い切れません。「麻痺を治すための介入」と「麻痺が残存した身体での動作練習」の両輪でリハビリを進めていく必要があるかと思います。
療法士の方へ
再生医療の出現は脳卒中リハビリテーションの方法論をよりよいものにする良い機会となります。
例えば、脳の障害部位に応じたオーダーメードのリハビリテーションメニューの確立など、今後、治療戦略を新たに作成する必要があるでしょう。兵庫医科大学の道免先生は次のように述べています。
「再生医療というものを正しく理解し, その上で自分たちの介入がどこに位置し, どのような意味をもつ可能性があるのかを知ることが重要である.」(道免和久 著 ニューロリハビリテーション 2015)
ただ闇雲に介入するのではなく、麻痺が治る可能性が高まっているからこそ治療戦略は吟味に吟味を重ねる必要があります。ニューロリハビリテーションの概念がより浸透していくことでしょう。
「患者の腕が動かないのは、麻痺が重度だから」
と言われていた時代から、
「患者の腕が動かないのは、療法士の腕がないから(療法士の実力不足だから)」
と言われる時代になるかもしれません。
近い将来、このような脳卒中リハビリのパラダイムシフトが必ず起こります。
その変化にあなたは適応できますか?