脳梗塞の再生医療に関する最新情報についてまとめました。治験薬の効果やメカニズム、実用化に向けた治験の進捗状況についても詳しくまとめました。実用化まであと何年かかる?



脳出血予防サプリ

再生医療とは?

再生医療は「ヒトの細胞から組織や臓器を作り病気やケガを治す医療」です。今までに下記のような細胞を用いて再生医療の取り組みがなされてきました。

  • 1998年:ES細胞(胚性幹細胞)
  • 1999年:間葉系幹細胞
  • 2007年:iPS細胞(人工多能性幹細胞)

「iPS細胞」は発見されたのが2007年と新しく、まだまだ研究が中心の段階です。それより前から研究が進んでいたのが「ES細胞」と「間葉系幹細胞」です。ES細胞はヒトの受精卵から作るため、倫理的な課題があり、慎重に研究が進められています。

そこで今、実用化に最も近いと注目されているのが間葉系幹細胞です。ヒトの骨髄などから取ることができ、免疫拒絶反応も少ないのが特徴になります。

 

脳梗塞の従来の治療法

脳梗塞の治療は以下の流れが主流となります。

  1. 血栓溶解療法による血流改善
  2. 抗浮腫療法による脳圧コントロール
  3. 脳保護薬による神経障害の抑制
  4. 抗血小板療法・抗凝固療法

「一度生じた脳梗塞の範囲をこれ以上広げない」ことに焦点を当て、治療を施します。その後の後遺症に対して有効的な治療法は確立されておらず、機能回復は自然回復とリハビリテーションに委ねられています。リハビリテーションによって後遺症の改善は期待できますが限度はあります。結局、重度の運動麻痺は後遺症として残ってしまうのです。

しかし、脳梗塞の再生医療は

「機能しなくなった脳内の神経組織を再度新しく生み出し、機能させる」

ことができるのです。

神経組織を再生させる方法は大きく分けて二つあります。

  • 神経に分化するES細胞やiPS細胞を移植する。
  • 脳内の神経幹細胞を活性化する。

ES細胞はヒトの受精卵から作るため、倫理的な課題があり、慎重に研究が進められています。iPS細胞は万能性であるがゆえに腫瘍化しやすいという問題があります。そのため研究の進展に乏しく停滞傾向にありました。

もう一つの方法は、脳内にもともとある神経幹細胞(神経に分化する細胞)を活性化させることです。現在は骨髄液にある骨髄間葉系幹細胞( MSC:Mesenchymal Stem Cell)を使った治療法に注目が集まっています。国内外で行われている治験の多くはこの骨髄間葉系幹細胞を使用しています。

骨髄間葉系幹細胞(MSC)の作用メカニズム

  1. MSCの病巣への集積(※ホーミング効果)
  2. 内因性神経幹細胞の活性化
  3. MSCによる神経栄養因子を介した神経栄養・保護作用、抗炎症作用
  4. 脱髄軸索の再有髄化
  5. 血管新生
  6. 神経系細胞への分化

※ホーミング効果:MSCが傷ついた部分に集まろうとする仕組みのことをホーミング効果といいます。

 

治験とは?

ここで簡単に治験についても説明します。

薬品を商品化して販売するためにはいくつかのステップを踏まなければなりません。そこで最も重要な関所となるのが「治験」です。治験とは人に治療を施した際の有効性や安全性について調べる「治療の臨床試験」のことです。【治験の前段階では基礎研究や非臨床試験(マウスなどの動物を用いて薬効薬理作用、生体内での動態、有害な作用などを調べる試験)を行います。】

治験は3相(Phase1〜3)に分かれます。Phase3では多数の患者を対象にするため、他施設共同で治療を行う場合がほとんどです。Phase3を経て厚生労働省の承認が下りれば販売開始となります。販売後、多くの患者に使用されますが、治療効果や安全性については引き続き情報を集めることが義務付けられています。この試験のことを「製造販売後(臨床)試験」といいます。製造販売後試験は法律によって定められており、また、その結果は治療効果や安全性の情報として、厚生労働省に報告され再び審査が行われます。そこで効果や安全性に何らかの問題があれば販売中止になることも。

国内外の再生医療の現状

札幌医科大学(本望 修 教授)の治験

1990年代後半より骨髄間葉系幹細胞に注目し、経静脈投与によって「脳梗塞に伴う神経症候に治療効果がある」という基礎研究結果を多数報告しています。2007年に12名の臨床試験Phase2を実施しており、現在はPhase3の真っ只中です。順調にPhase3の治験が終了して厚労省に承認されれば、数年後には実用化の可能性も…具体的には3〜5年後という声も。
(Phase3:多数の患者に対して治療を行う段階。他施設共同で行う場合が多いが、今回の治験は札幌医科大学附属病院に限る)

※脳梗塞の治験を受けたい方はこちらより詳細をご確認ください。
※脊髄損傷の治験はphase2が現在終了。phase3の準備中。

脳梗塞再生医療治療の流れ

参考:「再生医療の進歩-幹細胞移植を含めて-」本望 修 動脈硬化予防 Vol.15 2016

国内の他大学でも再生医療の治験を行なっています。

大学細胞疾患段階
北海道大学自己骨髄間質細胞亜急性期脳梗塞Phase1開始
東北大学Muse細胞(新規多能性幹細胞)心筋梗塞Phase1準備中..
東海大学再生アソシエイト細胞亜急性期脳梗塞Phase1準備中..
慶應義塾大学HGF(肝細胞増殖因子)

iPS細胞

急性期脊髄損傷Phase1・2開始

 

国外のベンチャー企業SanBio

今、世界中の患者から注目されている再生医療界のベンチャー企業「サンバイオ株式会社」です。脳梗塞の再生医療で最も実用化に近い企業の1つと言われています。創業者は日本人の森敬太氏です。

  • 2001年にサンフランシスコで創業し、再生細胞薬による脳の再生に取り組み始める。
  • 2014年に慢性期脳梗塞患者を対象とした治験で再生細胞薬の安全性・有効性を確認(米国食品医薬品局規制下のPhase1/2a治験)
  • 2017年にPhase2b開始(150名の患者に対して投与)

現在Phase2bでより多くの患者を対象に治験を行なっている段階です。実用化までの具体的な年数はまだ不明です。

Phase3への以降はまだ未定ですが、更に多くの患者を対象に有効性が認められれば米国で商品化が可能になります。世界で最も早い脳梗塞再生医療の実用化に期待したいところですが、残念ながら日本での実用化は目指していないとのこと…(日本の脳梗塞を対象とした治験については既に帝人株式会社にライセンスアウトしている)

【余談ですが、SanBioは慢性期の外傷性脳損傷患者にも治験を開始しており、東大病院とアメリカで合わせて52例の治験が終了すれば数年後の実用化も可能と言われています。】

SanBioの使用する薬(再生細胞薬SB-623)

健常なドナーの骨髄液を培養して骨髄間葉系幹細胞を採取します(採取から製剤までおよそ2カ月ほどの時間がかかる)SB-623の効果は以下の通り。

  • 神経細胞を作る
  • 血管を作る
  • 炎症を抑える
  • 神経細胞を守る

投与方法

定位脳手術で頭蓋骨に直径1cmほどの穴を開け、脳の損傷部位に直接SB-623を注射で移植します。局所麻酔なので翌日退院も可能です。

SB-623はもともと脳内にある神経幹細胞の働きを活性化させる細胞であり、神経幹細胞を刺激して損傷部位に新しい神経細胞を作り出すのを助けます。さらに、脳梗塞後の炎症を抑えて既存の神経細胞を守り、新しい血管を作ることによって神経細胞に栄養を与え、脳の機能を回復させます。

他家移植によるメリット

SB-623の最大の強みは他家移植(健常な他人の細胞を移植する)であることです。自家移植(自分の細胞を採取・培養して移植する)では、採取から治療まで数カ月の時間がかかります。札幌医科大学の治験でも静脈投与までに1〜2ヶ月の期間が必要になります。凍結保存されている他家細胞であれば待つことなく治療ができます。また、自家移植はオーダーメード医療のため、どうしても治療費が高額になってしまいます。その点、他家移植は量産できるのでコストを大幅に抑えられます。この強みはSB-623の実用化を後押しすることでしょう。

【今すぐ再生医療を受けたいなら自費診療】
脳梗塞後遺症の再生医療を受けるには?自費診療の費用や効果は?

 

まとめ

  • 骨髄間葉系幹細胞を用いた脳梗塞再生医療は現在も治験中..
  • 国内では札幌医科大学、国外ではサンバイオ社がリードしている。
  • 札幌医科大学は3〜5年後の実用化を目指している。
  • サンバイオ社は米国での実用化を図っているため、日本の実用化で最有力なのはやはり札幌医科大学。

脳梗塞は年間に約30万人が発症する国民病とも言われており、脳梗塞による医療費は年間約2兆円、社会的損失は年間約8兆円と言われています。また要介護状態となる主な原因(1位 脳血管疾患、2位 認知症)でもあるのです。
参考:平成27年 高齢社会白書 内閣府調査

近い未来、脳梗塞の再生医療が実用化されれば、医療・介護費の大幅な削減が可能となるでしょう。

乞うご期待。